「樹木葬」と言う名称の埋葬方法が始まって約15年程度であります。現在、私(大通寺 住職 機道俊明)が樹木葬について考えている事柄について数回に分けて考察してみたいと思います。ただし、私自身の私見による部分もありますので、今現在において各地で行われている「樹木葬」の考えと異なる部分があると思いますがご容赦ください。あくまでも私が現在経営している。「市原南霊園」を念頭に置いての考察です。
・樹木葬の始まった背景・歴史について
前述しましたとおり所謂「樹木葬」と言う埋葬方法が始まってまだ約15年程度であります。ご存じの方も多いと思いますが、岩手県にある臨済宗の祥雲寺(現、知勝院)様が荒れた里山を再生する目的で遺骨を土に直接埋葬する方法を「樹木葬」と名付けて始められたのが最初であります。現在も石のお墓(カロートと言う石の部屋を地下部に設けてそこに遺骨の入った骨壺を安置して、地上部に○○家先祖代々霊位等と彫った墓石を建立する)が主流であります。基本的に石のお墓は、継承者(お墓の跡継ぎ)が必要であり、継承者がいないお墓は、お骨を取り出して合同の供養墓等に移動して、お墓のあった区画は、墓地の管理者(市町村やお寺)に返却するのが一般的であります。現在、どの程度所謂「樹木葬」が認知されているかは判りませんが、お骨を土に直接埋葬し、墓標も石ではなく樹木を墓標とする埋葬方法(しかもお墓の継承者の有無に関係なく使用できる。)は、画期的な考えであったと思います。現在は、少子高齢化社会であり、近い将来にお墓の継承者がいなくなる事は明らかです。そんな時代背景もあり、樹木葬に限らず、継承者なしでも利用できるお墓の需要が高まっていることは明白です。これからも様々な埋葬方法が考えだされると思います。今現在も様々な埋葬方法がありますが、樹木葬についてのみ述べれば、樹木葬は、昔行われていた土葬と同じです。私の住む市原市では、昭和50年頃までは、人が亡くなると火葬を行わずに、棺桶(横に人を寝かせて安置するタイプ、寝棺(ねがん)、もっと以前には、桶に死体を座禅させて入れるタイプ、座棺(ざがん)でした。)に入れて、近隣の人々が順番で棺桶を墓地まで担いで掘った穴に土で埋めて、埋めた場所を高く盛って(土饅頭「どまんじゅう」と言います。)塔婆を立てていました。後日、その土饅頭の上に木を植える場合もありました。余談ですが、棺桶を担ぐ人、墓で穴を掘る人は順番が決まっていて、その順番を記入してある台帳を湯灌帳(ゆかんちょう)と言います。現在は、全て火葬ですが、お骨をお墓まで持って行く人は、今もその湯灌帳の順番で行っている地域もあります。また、これも余談ですが、当時は葬儀会社がなく近くのスーパーの裏で棺桶が買えました。
私が子供のころまでは、火葬せずにそのまま死体を埋葬するのが一般的で、石のお墓になったのは、特別な理由がない限り火葬する事が一般的になった後のことです。ですから、現在、樹木葬で行っている穴を掘ってお骨を土に還す方法は、その方式だけ見れば石のお墓が建立されるずっと以前から行われていた方法であります。「樹木葬」と言う名称だけで見れば真新しく感じますが、方法自体は全く新しい方法ではありません。むしろ、ずっと以前から行っていた土葬に戻しただけの事だと思います。
また、現在、樹木葬と言っても様々なタイプがあります。他でも良くタイプ分けに使用されていますが、「都市型タイプ」と「里山型タイプ」があります。都市型タイプは、従来の墓石主体の霊園の一角に、大きな石の囲いを作り、中心に桜等のシンボルツリーを植えて、回りに芝生を植えて合同で使用するタイプか小さく区画した場所を数名で使用するタイプです。このタイプは、交通の便が良くアクセスには申し分ないです。ただし、区画ごとに樹木を植えたりできない場合が多いです。また、都市部にありますので、園内自体すべてが自然の中にある霊園は少ないです。里山型は、交通の便が悪く、車でないと行けない霊園がほとんどです。ただし、田舎なので園内は広く、区画ごとに好きな樹木を植えられる所がほとんどで、もともとの里山を利用していますので、回りが自然の樹木に覆われており、自然志向の方には適しています。ちなみに私の市原南霊園は「里山型」です。どちらのタイプが良いかは、それぞれの方の趣向の問題で、一概にどちらが良いか言えませんが、どちらのタイプも一長一短があることは事実です。話を元に戻しますが、最初に樹木葬を考えられた一関の祥雲寺様がすばらしいのは、里山自体を保全しつつ、お墓としたことだと私は思います。前述のとおりその方式は、土葬ですから特に新しいと思いませんが、私の住む市原でも土葬で使用していた場所は、里山であっても人工的に平らにした場所です。里山自体をお墓として保全すると言う発想がすばらしいと思います。なぜなら、お墓となれば将来に渡って他者が安易に開発したり出来なくなります。また、現在、昔からあった里山を保全するのは大変に難しいと思います。長くなりましたので、この話は次回に致します。最後に付け加えますが、私がこの文書を書いているのは、石のお墓を否定している訳ではありません。石のお墓、樹木葬ともにそれぞれの良さがあります。様々な埋葬方法があり、利用される方に選択の幅が増えることは歓迎すべきことだと思います。